戸建リノベーションにおける競合状況①「新築そっくりさん」

出典: https://www.s-housing.jp/archives/223388

新建ハウジングが運営する工務店向けオンライスクールサイト「チカラボ」から、工務店の経営者や実務者に役立つ記事をお届けします。
今回は、稲葉元一朗さんの「リフォーム業界×ポーターの競争戦略」ルームからの記事です。


 

 

 
稲葉 元一朗
19年間、コンサルティング会社にてリフォーム業界向けコンサルティングに従事。​立教大学ビジネススクールにて、リフォーム業界の競争戦略を研究。​2019年1月に独立。戸建リノベーションビジネスの研究及び、複数の中小工務店の社外ブレーンとして活動中。

 
 


 


 

コダリノ研究所の稲葉です。

今回と次回はリフォームおよびリノベーション事業について、3C分析というテーマで「競合」の視点に焦点を当てて、お伝えしたいと思います。今回は、戸建リノベーションにおいて、全国規模で見るとダントツの実績を誇る住友不動産、「新築そっくりさん」事業を取り上げます。

特に中小の工務店は戸建リノベーションに参入しながら、自社と顧客に対しては注力していても、「競合」を見る視点は不足しがちですので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

3C分析とは、顧客・競合・自社という、事業展開にとって大切である3つの視点で分析をする手法です。(1)顧客の視点には、想定される顧客特性・ニーズや行動・市場規模等があります。一方、(2)競合の視点とは、競合の強さ・特徴・戦略・差別化などを意味します。(3)自社の視点とは、それらを自社に当てはめたものになります。顧客・競合・自社を分析することで、とるべき戦略や手法が見えてきます。

 

「新築そっくりさん」を知ろう

まず、企業概要を見ていきましょう。

<概要>「新築そっくりさん」事業(住友不動産)
・新築そっくりさんという事業は1996年にスタート
・絶妙なネーミング、斬新なシステムが脚光を浴びる
・総合リフォームが当たり前だった当時に、大型リフォーム・リノベ-ションにいち早く特化
・耐震診断と補強を標準仕様にした
・定価制というわかりやすさ
・お客様宅の見学会を各地で大量開催する集客手法(見学会の開催数はカウントしただけでもざっと、月間200回はあり、特に東日本で多い。定点観測しますと、特に群馬県は人口当たりの開催数が多い。県庁所在地より郊外での開催比率が高い)
・営業担当が一貫して担当する(業界では、大型リノベーションの場合は分業制をとることが一般的)
・30分程度で作成できる見積りシステムがある

<業績>
あくまでもリフォーム、リノベーションに関する数字になります(かっこ内は前年比)。
・売上:1,246億円(+3)=業界2位(新規売上は1位)
・施工件数:17,990件(▲600)=平均単価は700万円程度ですがこれは新築そっくりさん事業ではない一般リフォームも含んでいると推測します。
・拠点数:123店(+2)=1店舗当たり10億円
・社員数:2,910人(+120)
・新規比率:90%
(出典:リフォーム産業新聞、2020年9月28日号)

近年はマンションに注力したり、新耐震基準(1981年6月以降)の建物を見据えた動きも見られたりします。ご存知の通り、2000年の改定までは、壁の配置バランスや接合部の金物が規定されておりませんでしたので、その課題解決に向けた取り組みです。
施工エリアは沖縄を除く全国展開になります。

 

「新築そっくりさん」のマーケティングとは?

次にマーケティングの全体像を見ていきましょう。誰に何をどのように、ということについてふれておきます。

ホームページの各写真を見る限り、明らかにシニア層に向けて発信していることがうかがえます。シニア層に向けて定価制のリフォーム・リノベーションを見学会を通じて訴求するというかたちをとっています。

近年はWEB経由も多いという情報もありますが、依然として折り込みチラシを多用している点もシニア層を意識したものと思われます。

このような流れで「誰に、何を、どのように」を事業展開しています

「新築そっくりさん」ホームページより

 

リノベーションのポイント

「新築そっくりさん」のリノベーションの内容について触れます。着眼ポイントとしては、(1)耐震、(2)断熱、(3)素材、(4)間取り、(5)価格です。
この5つのポイントで新築そっくりさん事業を見てみましょう。

(1)耐震
まず耐震ですが、当初から耐震への意識の高さが感じられる点、耐力壁や建物によっては制震ダンパーを取り入れている点、ホームページ上の施工事例から確認できます。

基礎に関する情報もひび割れ補強など記載がありますが、基本は、営業担当者による耐震診断、全国各地の下請けによる施工体制、古民家など難解な建物への対応など総合的に判断しますと、自社で診断から施工管理まで取り組む地域工務店に比べると施工品質の均一化においては、やや懸念材料として残ります。

(2)断熱
断熱はグラスウールと記載されています。サッシは外側がアルミ、内側が樹脂という複合サッシで、タマホームほか各地のビルダーもよく取り入れているものです。耐震と比べると断熱はどうしても優先順位が低く感じられます。新築そっくりさんに限らず、新築業界と比べるとリフォーム・リノベーション業界では性能面に関する情報発信が少なく、業界全体の課題とも言えますが、施工前は無断熱だったり、隙間だらけの断熱・気密だったりするケースが多く、冬季の暖かさ、夏季の涼しさは十分実現するという点、付け加えておきます。

(3)素材
素材に関する記述は見当たりません。無垢材は使わずクロスなど普及品になります。この点に関しては大手企業にありがちな最大公約数的な仕上がりと言えます。

(4)間取り
間取りの提案は平均的な対応、ブランド力があり、かかえる案件が多い中、とことん寄りそう間取り提案やこだわるお客さんへの対応はあまり得意ではないという出身者の声もあります(担当者によるところも多く、あくまでも傾向です)。

住設機器はパナソニック、LIXIL、トクラス、クリナップなど有名メーカー品から標準仕様が設定されています。

(5)価格
価格は、新築の場合、大手ハウスメーカーさんは総じて高い傾向ですが、新築そっくりさんに関しては、下請業者という中間に1ステップ入りますので、その点、お互いの企業努力で原価ダウンをどこまでできるかにかかっていると言えます。

ただし、同じ価格(坪単価)という条件でしたら性能を追求し、素材にもこだわる地域工務店さんはコストパフォーマンスが高いと言えます。しかしながら、顧客側からの視点において、わかりやすさという点で優位性があります。

施工体制

 

分かりやすいシステムを構築した秀逸なビジネスモデル

ということで、着眼するポイントによって評価は分かれそうですが、戸建リノベーション、大型リフォームにいち早く特化し、この領域において難しいとされた「定価制」という、お客様から見てシンプルでわかりやすいシステムを構築し、しかも耐震を標準化している点、ビジネスモデルという観点から見ると大変秀逸だと言えます。

一方、現時点では、耐震以外の要素は何かを追究する姿勢はあまり感じられず、あくまでもお客様目線で素材や断熱の定量的な提示など、お客様に寄り添った対応は大きな武器になります。
そして、新築そっくりさんはやはりリノベーションに偏るトークになりがちですが、現況の診断を通じてプロの視点で建て替えかリノベか客観的に判断することが地域工務店の役割だと考えています。生産性の問題はありますが、複数回のプラン修正に積極的に応じることも有効です。

以上、新築そっくりさんは平均単価が1200~1300万円と言われており、1000万円級の戸建リノベーションにおいて相見積りになる可能性は高いです。ぜひ参考にしていただければと思います。
ではまた次回に続きます。

 

<一般ユーザー向けですがこちらで関連動画を発信しています(コダリノチャンネル)>
https://www.youtube.com/watch?v=D4ptjTapPTs&t=1s

 
 

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