プラスワンで長年にわたり続いてきた「住まい手に聞くリフォームの本音」連載を、「新建ハウジングDIGITAL」に場所を移して隔月で配信中。本連載は、リフォーム後に建て主を取材し、経緯を振り返ってもらっているが、今回は前回に引き続き、新潟市に暮らす30代のAさん夫婦の大規模リフォームについてレポートしていく。今回は請負契約と住宅ローンの契約の前後の出来事を中心にまとめる。
大菅 力(おおすが・つとむ)
1967年東京生まれ。早稲田大学第二文学部中退後、木材業界雑誌の出版社を経て1994年に株式会社建築知識(現:株式会社エクスナレッジ)に入社。月刊「建築知識」、季刊「iA」などの建築、インテリア専門誌の編集長を務める。2010年に退社。現在フリー。季刊「リノベーションジャーナル」(新建新聞社刊)の編集長を務める。主な著作に「リフォーム 見積り+工事管理マニュアル」(建築資料研究社)、「世界で一番やさしい仕上材(内装編)」(エクスナレッジ)、「心地よい住まいの間取りがわかる本」(同)がある。
第70回「郊外の地下室付き住宅のリフォーム」<その2>
まずは前回の内容を簡単におさらいする。
子供が3人おり、上から小学校4年生、3年生、1年生になる。子供が大きくなってきたので中古住宅を購入して大規模リフォームをすることを決意。物件は無事に見つかり、工務店も身内から自然派ライフ住宅設計(新潟市)を紹介してもらった。
問題は予算。想定していた2000万円を200万円ほど超える見積りが出てきて、Aさんは悩む。
最終的には、自然派ライフ住宅設計が開催した勉強会で予算を掛けて性能向上させたほうが、光熱費や維持費を考えると長期的には得だと判断し、リフォームを決意。紹介された銀行における住宅ローンの仮審査にも通った。
そして自然派ライフ住宅設計との請負契約と住宅ローンの契約を行うタイミングで問題は起こった。大きな車庫の部分が未登記だったのだ。
未登記物件のリスク
Aさんが購入した土地建物は登記上2筆に分かれており、片方は更地と記載されていたが、実際には大きな車庫が建っていた。
新築時と同様に車庫などの増築時にも表題変更登記を行う必要がある。だが実際には未登記で放置している物件が多い。相続や売買で所有者が移り変わってきた物件だと、持ち主がそれを把握していないこともある。
Aさんにこのことを伝えたのは銀行の担当者だ。土地建物を担保にした住宅ローンを検討しているときに気が付いたのだ。Aさんは驚いた。不動産会社からは何も説明を受けていないからだ。
通常、購入予定の土地建物を仲介する不動産会社は、法務局に出向いて登記簿謄本の内容を確認する。謄本には所有者の名義や抵当権の設定の有無、建物の面積や形状などが記載されている。
このうち建築面積やかたちが現物と異なれば、増築部分などが未登記の可能性が高いと分かる。増築によって床面積が増加していた場合、建蔽率や容積率を超過していないか確認も必要になってくる。
これらを調査した結果、増築や建蔽率・容積率の超過があれば、重要事項説明書の備考欄にその概要を記載する必要がある。これらを説明した上で購入することになった場合、「売主の責任と負担により、引き渡しまでに建物表題変更登記を行う」と明記した売買契約書を作成するのが一般的だ。
Aさんのケースでは不動産会社がこうした段取りや書類作成を怠っていたため、契約書を交わした後に増築の事実が発覚した。仲介した不動産会社の落ち度だ。
ちなみに変更登記がされていない増築物件を購入した場合、買主にはいくつかのリスクが生じる。
まずは、増築部分の所有権の在り処が曖昧なので、将来的な売買が困難になる。また、自治体が増築を把握していなかった場合、増築部分の表題変更登記により固定資産税が増額される。
そして最大のリスクは、住宅ローンの融資が受けられないことだ。特に増築などにより床面積が増加し、指定制限の容積率などを超過していると違反建築となるため、金融機関から住宅ローンは難しくなる。
Aさんのケースは土地が広く面積超過の心配はなかったが、密集地だとあり得ることだ。